ヒゴタイ国際交流

タイと熊本の中学校で30年以上続く国際交流「ヒゴタイ国際交流」

熊本県産山村の産山学園は、30年以上前からタイ国カセサート大学附属中学校との国際交流(ヒゴタイ交流)を行い、現在も毎年継続中です。タイの中学生と国際交流をすることで熊本の小さな中学校でもグローカルな人材育成を行うことができ、文科大臣賞を3度受賞しています。
 

産山学園~英語教育を重視したグローカルな教育~

熊本県産山村の村立「産山学園」は、阿蘇外輪山に近い山間部の生徒数約100人の小さな小中一貫教育校です。1988年(昭和63年)から、村づくりの人材育成の一環としてタイ国首都のカセサート大学附属中学校と中学生の国際交流(ヒゴタイ交流)を開始し、2017年(平成29年)に交流30周年を迎えて、現在も毎年継続中です。

この間、国際交流をベースとして英語教育を重視したグローカルな教育による21世紀スキルを持った人材育成を行っています。

この結果、ヒゴタイ交流に対する高い評価や、地域と共にある学校づくり活動の評価、さらに地域学校協働活動の1つである「うぶやま夢塾」の評価などから、3度にわたる文部科学大臣表彰や馬場賞、博報賞などを受賞しています。
 

概要版 ヒゴタイ交流のあゆみ~昭和、平成、令和へ~

はじめに

記念誌「ヒゴタイ交流のあゆみ」の表紙


 

熊本県産山村は阿蘇外輪山に近い山間部の人口約1,500人の小さな村です。ここの村立義務教育校「産山学園」は、生徒数100人ほどの小さな小中一貫教育校です。

1988(昭和63)年から、村づくりの人材育成の一環としてタイ国首都のカセサート大学附属中学校(以下、カセサート校と言う)と当時の産山中学校(現在の産山学園)が国際交流を開始しました。

交流事業は、産山村の村花である「ひごたい」と、肥後の国(熊本県)とタイ王国との交流を掛け合わせて「ヒゴタイ交流」(Higo-Thai Exchange)と呼ばれ、2017(平成29)年に交流30周年を迎えて、令和時代も続いています。昭和から平成に続く30年間の大きな流れと成果をまとめました。
 

1.ヒゴタイ交流30年間の歩み

ここでは国際交流を開始する前の段階、交流の開始から10周年まで、20周年まで、30周年まで、そして30周年の表彰など、年代別に分類して出来事や話題の概要をまとめました。
 

(1) 国際交流の開始前の段階

  • 1986(昭和61)年、村の甲斐政徳教育長は当時教育の国際化が重要な課題になっていたにもかかわらず、山村だけでは国際対応が難しかったため、強い危機感を持っていました。
     
  • 1987(昭和62)年、甲斐教育長は知人だった農水省農村振興局の海外協力室長に、国際化時代に対応した教育の国際化について支援を依頼しました。室長からは「まず海外から来ているJICA(国際協力機構)技術研修生と交流をしてみたらどうか」との提言があり、その後、産山村にJICA技術研修員が訪れて小中学生との触れ合い交流が始まりました。
     
  • 1988(昭和63)年、甲斐教育長は産山村での小中学生と海外研修生との触れ合いの効果を実感して、農水省の同室長に「海外との姉妹校交流をしたいので交流先を紹介して欲しい」と要請し、同じ仏教国のタイ国首都バンコクにある国立カセサート大学附属中学校(以下、「カセサート校」という)が選定されました。
     
  • ​​​​​​​選定後すぐの1988年7月に甲斐教育長はバンコクを訪れ、現地派遣の農水省職員の支援を得てカセサート校校長と姉妹校協定を締結しました。交流の目的は「21世紀の両国の役割を担う中学生の能力を高めることを通じて、両国の友好を築くこと」とされ、毎年お互いの夏休みに4~5人の中学生を3週間派遣するなどが合意されました。農水省からはその後も、タイ国内での支援や産山中学校での海外事情の講演など継続的な支援が続きました。

(2) ヒゴタイ交流の初めの段階から交流10周年まで

ヒゴタイ国際交流5周年記念詩表紙
ヒゴタイ国際交流10周年記念詩表紙


 

  • 姉妹校協定締結後、産山村では1988(昭和63)年10月に第1回のカセサート校の交流生を受け入れるため、ホームステイを受け入れるホストファミリー探しが進められました。タイからは4人の教師、4人の中学生(2・3年男女各2人)の訪問団が訪村し、3週間の交流事業が始まりました。
     
  • 翌年の1989(平成元)年7月24日には、今度は第1回の産山村の訪問団がタイに派遣されました。井山國一村長を団長とする総勢40人(留学生4人・引率教師1人・派遣団10人・観光団25人)で、バンコック国際空港では、カセサート校の先生やホストファミリーの大歓迎を受けました。
     
  • 1990(平成2)年10月、産山中学校は「国際理解教育に顕著な実績があり、かつ今後も地域や他の学校の模範となる国際理解モデル校である」と評価され、財団法人国際教育交流馬場財団から「馬場賞」を受賞しました。
     
  • 1992(平成4)年の交流5周年記念には、馬場賞の賞金などを活用して「タイ国の象徴である象のモニュメント」を産山中学校の玄関前に設置しました。
     
  • 1993(平成5)年、5周年の記念訪問団が甲斐政徳助役を団長として派遣されました。交流生など7人を含む30人の派遣団が、カセサート校生の家庭20戸にホームステイしました。
     
  • 1998(平成10)年、10周年の記念訪問団が井山國一村長を団長として派遣されました。10周年記念行事として、産山村と農水省関係者が建設費を支援した「ヒゴタイ日本語学校」がカセサート校に完成し、記念訪問団に披露されました。
     

(3) ヒゴタイ交流から20周年まで

ヒゴタイ国際交流15周年記念詩表紙
ヒゴタイ国際交流20周年記念詩表紙


 

  • 2004(平成16)年4月、産山中学校は「当村で教育を受けてよかったと実感できる教育を創造する」という基本方針を掲げ、熊本県下に先がけて2学期制を導入しました。
     
  • 2004(平成16)年、産山中学校は15年間のカセサート校との姉妹校交流が高く評価され、「文部科学大臣奨励賞」を受賞しました。十年を越える年月、密度の濃い交流活動と同時に、国際理解の講演を年に数度催すなど、国際理解の地道な土壌作りも積極的に行ってきた点が高く評価されました。
     
  • 2004(平成16)年11月、産山中学校は長年のヒゴタイ交流が高く評価され、児童生徒の「豊かな人間性育成」に対する教育を実践している学校などを顕彰している(公財)博報児童教育振興会(博報財団)から、「博報賞~文化教養育成部門~」を受賞しました。
     
  • 2007(平成19)年4月、村内の小学校2校が統合し、中学校と併設されました。また同年4月から2009(平成21)年3月まで、構造改革特区(小中一貫教育特区)を受け、小中一貫教育が施行されました。
     

(4) ヒゴタイ交流から30周年まで

ヒゴタイ国際交流25周年記念詩表紙
ヒゴタイ国際交流30周年記念詩表紙


 

  • 2009(平成21)年2月、産山中学校はアジアとの国際交流に取り組む小中学校などを称える西日本国際財団から「アジアKids大賞」を受賞しました。
     
  • 2009(平成21)年4月、産山小中学校では文部科学省承認教育課程特例校として、小中一貫教育(5・2・2制)を開始しました。
     
  • 2014(平成26)年9月、タイ国のタナティップ・ウパティシン駐日大使が、「ヒゴタイ交流」を続ける産山村を初めて訪れ、産山小学校・中学校の児童生徒116人と交流されました。
     
  • 2015(平成27)年、ヒゴタイ交流の卒業生(第3回:1990年)の芸術家リンナ・カラーヌワットさんが、村内を走っている産山保育園バスに猫のイラスト(下の写真)を描きました。このイラストは、2015年の世界イラストレーションアワードにおいて最終選考まで残りました。
     
  • 2015(平成27)年度、産山中学校はヒゴタイ交流などの「地域と共にある学校づくり」の活動が高く評価されて、「文部科学大臣賞」を受賞しました。
     
  • 2016(平成28)年度、産山小・中学校はICTの実績が認められ、日本教育工業会から「学校情報優良校」に認定されました。
     

(5) ヒゴタイ交流30周年の表彰など

  • 2017(平成29)年7月、産山中学校とカセサート校に対して、30年間にわたるヒゴタイ交流による交換学生の取り組みが、日タイ両国の文化交流の促進に貢献したとして、在日タイ大使から「在外公館表彰」が授与されました。
     
  • 2017(平成29)年7月、第30回の記念行事として市原村長を団長とするヒゴタイ交流の訪問団がタイに派遣された際に、カセサート校での歓迎式典で在タイ日本大使館の佐渡島大使が、両校に対して「在外公館表彰」を授与されました。
     
  • 2017(平成29)年10月、産山中学校では、カセサート校交流生6人及び引率教師の他、歴代PTA会長やのホストファミリー等総勢35人を迎えて、ヒゴタイ交流30周年記念式典が盛大に催され、在京タイ大使館のチューチャーイ・チャイワイウィット公使も出席されました。
     
  • 2017(平成29)年3月、産山中学校が国公立の中学校で英語検定の受験率(受験者数/在校生数)が全国一になったことが評価され、英語検定協会から「米国大使賞」を受賞しました。
     
  • 2017(平成29)年12月、地域学校協働活動の1つである「うぶやま夢塾」の活動が高く評価され、「文部科学大臣表彰」を受賞しました。
     
  • 2018(平成30)年3月、産山中学校の「産山に誇りを持ち、視野を広げながら、主体的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成~ヒゴタイ交流における体験の場を生かして~」というヒゴタイ交流30年の具体的取り組みやその成果をまとめた論文が、阿蘇郡市教育委員会連絡協議会、阿蘇教育事務所主催の平成29年度教育論文審査で、みごとに「最優秀の特選」を受賞しました。
     
  • 2018(平成30)年4月、産山中学校は産山村立義務教育学校「産山学園」へ移行しました。
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2.ヒゴタイ交流の進め方と成果

山村の小さな中学校とタイ国首都の大規模学校との国際交流であったため交流当初は手探り状態でしたが、長年の交流により交流生の派遣や受け入れを円滑に進めるためのノウハウが蓄積されてきました。また交流の効果も明確になってきましたので、以下に述べます。
 

(1)ヒゴタイ交流の具体的な進め方

1. カセサート校への交流生派遣(時期:7~8月の夏休み)
  • 産山村からの交流生の選考と派遣準備

交流生は希望者の中から選考会によって決定します。国際理解に対する関心や学習への意欲、発表能力等を作文や面接によって総合的に評価し決定しています。

交流生として決定後、第1回交流生保護者会を開いて話し合い、準備に関する連絡を行います。

その後、4名の交流生と引率教師はカセサート校での生活に向けて準備を進めます。歓迎式典で行うタイ語のスピーチや和楽器演奏・日本舞踊等を練習するとともに、タイ語の日常会話を学習します。また、各教科で学んだことを深め、現地で日本や郷土の文化・生活を伝えられるように準備をします。

交流生は日本や郷土の伝統芸能・文化を学び直し、見つめ直すことで、自らの存在意義(アイデンティティー)を考える機会を持つことができます。

 

  • タイ国での生活

カセサート校では、交流生は各クラスに配属され、現地の生徒と同じように通常の授業へ参加します。英語や簡単なタイ語で意思疎通をし、分からないことを友達に尋ねる姿が見られます。また、特設授業が行われ、伝統音楽やタイダンス、郷土料理を学習します。

交流生はホストファミリーとともに3週間を過ごします。タイの家庭生活も体験し、異文化や他国の生活を知ります。また、お互いの違いを認め合うことのすばらしさと、どこの国でも普遍的な「優しさ、思いやり」について学びます。言葉の壁を越えて、信頼と友情が育っていくことを実感することができます。
 

2. カセサート校からの交流生受入れ(時期:タイの夏休みの10月)
  • 交流生の受入準備

カセサート校からの交流生を受け入れるホストファミリー選定のため、2月のPTA総会で保護者の希望を募り、生徒の学年を考慮して決定します。

次に8月または9月に、第1回のホストファミリー保護者会を開きます。ここでは、タイの交流生にホストファミリーを紹介するための写真・挨拶文の作成、今後の日程、心構え等について話し合います。また、訪問中の交流生が多くの時間を本校生と同じ授業を受けられるよう、教科や学年を調整します。

各クラスでは、全生徒が歓迎ポスターの作成やクラスでの歓迎会の準備をします。また、歓迎式典で披露するため「うぶやま学」で取り組む「ヒゴタイ太鼓」や「浦安の舞」を、練習します。

 

  • 日本での生活

受入期間中、交流生は本校生徒とともに日本語の授業を受けます。また、記念植樹や伝統芸能の体験、料理教室などの特設授業を受け、交流を深めたり日本文化を学んだりします。

交流生は学校では本校生徒とともに、家庭生活においてはホストファミリーとともに過ごして、日本文化・生活習慣を学習します。休日はホストファミリーの計画により、観光やショピングを楽しみます。
 

(2)ヒゴタイ交流の成果

ヒゴタイ交流が30周年を無事迎えられたのは、ホストファミリーの献身的な世話、村民の理解と協力、中学校による姉妹校との連絡調整や綿密な運営計画、日常的な世話、村当局の理解や経済的援助、そして主管の教育委員会の対応など、産山村全体の力が結集されています。それゆえ、ヒゴタイ交流は産山村が誇りとする国際交流となっています。以下に、30年間の具体的な成果について述べます。
 

1. 全国に先駆けた英語教育と学校魅力化
  • 充実した英語教育

文部科学省は2017(平成29)年3月、「グローバル化の進展の中で、国際共通語である英語力の向上は日本の将来にとって極めて重要で、現在の英語教育では特にコミュニケーション能力の育成について改善を加速化すべき課題も多い」と指摘し、従来の学習指導要領を改善して小中学校の英語教育に力を入れ始めました。このため保護者は英語塾に通わせたり、英語教育が進んだ学校に教育移住するなどの動きも聞かれます。

産山中学校ではヒゴタイ交流のコミュニケーションツールとして英会話が不可欠であるため、文科省の学習指導要領が出される約30年前(1988年)の国際交流当初から英語教育に力を入れ、小中一貫教育を始めた2007年(平成19年)からは特別なカリキュラムを組んでいます。その1つに小学校1年生から9年生までの英会話と、小学校5、6年生に中学校の英語を先取りした英語科を教科として創設し取り組んでいます。特に英会話科では、村に来たタイからの交流生に英語で話しかけられることを想定して、カリキュラムを組んでいます。

英語検定にも力を入れ、2017年には英語検定協会から全国の中学校国公立部門で英語検定の受験率がトップとなり「米国大使賞」を受賞しています。

成果の一部として、2013(平成25)年には熊本県英語暗唱発表会で本校の中学3年生が第1位に輝きました。またタイからの交流生に、生徒たちが地域や学校のことを英語で紹介する制作映像の4作品がすべて「熊本ITCコンテスト、マルチメディア部門で入賞」しました。

 

  • 学校の魅力化の推進

全国的に過疎地での生徒数減少から学校統廃合の話が聞かれ、その対策として近年、全国的に波及してきているのが「学校魅力化プロジェクト(魅力的な学校をつくる)」です。

産山中学校は、長年にわたるカセサート校との姉妹校交流の成果や、地域と共にある学校づくりの活動、さらに地域学校協働活動の1つである「うぶやま夢塾」の活動などが高く評価され、3度にわたる文部科学大臣表彰や馬場賞、博報賞などを受賞し、全国的に高い評価を得ています。このことから既に、学校魅力化の先進校となっていると考えています。
 

2. 派遣数や中学生の意識変化など
  • これまでの派遣生・受入れ生の総数

2017(平成29)年9月現在、派遣生は126人、受入れ生は137人です。

 

  • ホストファミリー

30年間の交流により、村全体で約600世帯のうち延べ100世帯余りの家がホストファミリーとなっており、まさに村を挙げての交流になっています。

 

  • 中学生の意識や態度の変化

交流の回を重ねるごとに、登校生徒とカセサート校生との積極的交流が見られるようになっています。また、本校からの派遣生以外の生徒も、受入の際にカセサート校の生徒と積極的に関わっている姿もあり、大きな成果と言えます。

具体的には次のような成果が見られます。

  1. 机上の勉強ではない生の体験により、国際社会の一員としての理解と自覚が格段に深まるとともに外国語学習への意欲が高まってきています。実際に話し、お互いの国の伝統や文化などを肌で感じることは、中学生のこの時期重要であり、効果が大きいです。
  2. 互いの文化や価値観、言葉の壁や人種の違いなどを乗り越え、人と人との心の結びつきを大切にしていこうという心情が育っています。
  3. 外国人に対する違和感がなくなり、村外に出ても自分の生き方に自信を持って生活できるようになっています。

     
  • 英語検定の取得率

全校生徒における英語検定3級以上の取得率も年々増加し、2016(平成28)年度の取得率は次のようになっています。

  1. 9年生(卒業時)の英検3級以上の取得率は61.1%です。
  2. 7年生から9年生までの全体の英語検定3級以上の取得率は38.5%です。


     

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